人気ブログランキング | 話題のタグを見る

ajax.exblog.jp

Top

エールディビジの日本人選手 2023-24   

2024年 02月 16日

今シーズンのオランダリーグには日本人選手が多い!ということで日本人選手の様子をまとめてみたいと思います。シーズン後にやれば良いかなと思っていたのですが、FODとフジテレビNEXTでの放送が決定するという嬉しい誤算がありましたため、放送開始直前のこのタイミングで思い立ちました。

と言っても、試合観戦できている訳ではないのでプレーについては詳しくない。記録やニュースなどから感じとったものをなんとなくまとめるだけのこたつ記事です。

オランダに今シーズン関わっている日本人選手は恐らくなんと9人。AZをはじめ、NEC、スパルタなどもSNSで頻繁に日本人選手を出してきています。たぶん反応が良いので味をしめているのでしょう。試合での活躍も増えれば日本人選手の価値を見出して獲得をするクラブももっと増えていくのではないでしょうか。
恐らく9人、とか曖昧な言い方なのは情報が少なくて国籍が把握できていない選手もいたからなのですが、それはともかくUEFAのトーナメント初戦が終わった2月16日時点の記録をベースに一人一人見ていきたいと思います。

最初にデータの書き方について。
● 2023-24シーズンの公式戦が対象。
● 出場試合数・出場時間は、怪我・代表で不在の試合も含めたものを"最大"と表現して、実際の出場分との兼ね合いで稼働率%を出しています。
● コンペティションの表記は、Ere=エールディビジ(国内リーグ戦)、Beker=国内カップ戦、CL=UEFAチャンピオンズリーグ、EL=UEFAヨーロッパリーグ、ECL=UEFAカンファレンスリーグ、KKD=国内2部リーグ

ということで、上位チームから順にいきましょう。


Feyenoord (エールディビジ 2/18位)
監督: Arne Slot
上田 綺世
No.9 FW
出場試合/最大: 21試合/29試合 [72%]
出場時間/最大: 634分 (Ere:405, Beker:41, CL:125, EL:63)/2,610分 [24%]
先発/ベンチ: 3回/20回
フル出場: 1試合
ゴール:  1得点 ※ステングスのアシスト
アシスト: 0回
イエロー/レッド: 0枚/0枚
交代(IN): 18回 ※ヒメネス10回、ゼルキ、パイション3回など
交代(OUT): 1回 ※ミンテとの交代

クラブ史上最高額の移籍金で5年契約。背番号9も与えられ、クラブレジェンドの小野伸二を起用した加入発表動画と共に鳴物入りで獲得が報じられたのがシーズン開幕前。チームには絶対的なストライカーであるサンティアゴ・ヒメネスがいるため、即座にポジションを得るのは難しい状況ではありました。なので思うような結果がまだ出ていないのはある程度仕方ないかと思われます。実際ヒメネスはAZのパヴリディスと共にリーグレコードを樹立するのではないかというペースで得点を重ねてきました。最近はややペースダウンしていますが、そこに割って入るのは期待値が高いとしても難しかったのではないでしょうか。

スロット監督の当時の発言で「UEFAとリーグでCFを使い分けていく」といった趣旨の発言があったと記憶しているのですが、蓋を開けてみれば途中交代で慣れさせようにもなかなか結果が出ないといった状況でシーズンの半分が過ぎてしまいました。これは代表戦の負傷も影響したのではないかと思っています。CLグループステージ初戦のセルティック戦を負傷により離脱。Aマドリー、ラツィオ、セルティックというグループにおいてはホームのセルティック戦は比較的出場のチャンスは高かったはず、ということを考えると勿体ないタイミングでの負傷でした。

とはいえ全体としては6試合を怪我及び代表戦で不在だったなかで実質試合に絡まなかったのは8節PECズウォレ戦と11節RKC戦のみ。ゴール数は4節ユトレヒト戦の1得点のみ(CLのGS2節Aマドリー戦ではオウンゴールを誘発し、ほぼ上田の得点と言っても良いプレーもあった)なので、途中出場で結果を出したいところではありますが、今のところは期待も込みで我慢強く起用してもらえているのではないかと思います。
ヒネメスは注目銘柄で来シーズンはいなくなりそうな気がします。そして最近は得点も減ってきているのに加え、怪我の影響もあって直近2試合は上田さんがスタメン起用されるなど、活躍する場も整ってきたのではないのでしょうか。
今シーズン初のフル出場となったスパルタとのロッテルダムダービーではペレスやテオ・ヤンセンといった元選手解説陣に酷評されてしまったようですが、今シーズンはなんとか爪痕を残して来期に向けてポジションを獲得することを目標に頑張ってもらいたいところです。ELも含むシーズン後半戦は得点力を開花させることに期待しつつ、新たなエースの座に君臨する様を見届けましょう。

アルネ・スロットも現在オランダ人では屈指の監督なので、チームとしても見るのは面白いかと思います。
エールディビジの日本人選手 2023-24_c0193059_06285646.png

AZ (エールディビジ 4/18位)
監督: Pascal Jansen → Maarten Martens
菅原 由勢
No.2 RB
出場試合/最大: 27試合/33試合 [82%]
出場時間/最大: 2,366分 (Ere:1,355, Beker:180, ECL:831)/3,000分 [79%]
先発/ベンチ: 27回/0回
フル出場: 22試合
ゴール:  0得点
アシスト: 6回 ※パヴリディスへ3回、その他は1回ずつ異なる選手へ
イエロー/レッド: 0枚/0枚
交代(IN): 0回
交代(OUT): 5回 ※4/5がカシウスとの交代

2019年からAZの一員に加わった菅原さんは、引き抜かれが多く育成にも長けたAZでは最古参となってしまったようです。完全なる右サイドのレギュラーで、日本代表を含めるとそのプレー時間の総数は尋常ではないと話題にもなりました。
今シーズンのAZでは5試合が代表戦で不在だったため、実質的にはECLを控えた7節フォルトゥナ戦のみが欠場した試合。試合でもSNSでもチームを牽引する働きです。

近年では待望の日本代表入りをして定着もしてきましたが、先のアジア杯では毎熊選手の突き上げを食らっておりこれからまたひとつ頑張りどころ。
毎熊選手について「どこでやるかではなく、何をやっているかだ」と評価していたのは久保さんでしたっけ?たしかにこれはその通り。ですがこの言葉が当てはまるのは菅原さんも同じではないでしょうか。かつては絶好調のテンハフアヤックスに対してブリント潰しの役割を担ってチームを勝利に大きく貢献するなど、決して有名とは言えないAZで数々の経験をこなしてきています。

そこまで話題になることもないかもしれませんがAZは本当に良いクラブです。スロット監督をフェイエノールトに引抜かれ、多くの有望選手もイタリアクラブなどに引抜かれたAZは、遂にパスカル・ヤンセン監督を交代。最近はやや思うような結果が得られていない状況ですが、復調したAZが見られるのか、シーズン後に監督がどうなるのか。菅原さんが牽引するAZは興味深く追っていきたいところです。


NEC (エールディビジ 7/18位)
監督: Rogier Meijer
小川 航基
No.18 FW
出場試合/最大: 22試合/25試合 [88%]
出場時間/最大: 1,626分 (Ere:1,399, Beker:227)/2,250分 [72%]
先発/ベンチ: 19回/4回
フル出場: 9試合
ゴール:  10得点 ※シェーネ、プロッペル2回、他ハンセン、チェリーなどからのアシスト
アシスト: 1回 ※プロッペル
イエロー/レッド: 1枚/0枚
交代(IN): 3回 ※ドスト2回、シェーネ
交代(OUT): 10回 ※3/10がドストとの交代、他は異なる選手

エールディビジデビューでシェーネのCKから初ゴールをあげると、続く2節でも2試合連続となるゴール。エールディビジで幸先の良いスタートを切った小川さんではありますが、その活躍を語るうえで欠かせないのがバス・ドストの存在と彼に起きた悲劇でしょう。元オランダ代表のCFは2節終了の時点でNECへ加入。しばらくは先発が小川さんでドストが途中交代する形でしたが、6節にはポジションを奪われ、その試合でドストが初得点。その後小川さんは完全にドストの控え要因という位置付けとなってしまいました。
そんな状況だった10月29日の10節AZ戦。試合終盤にドストが心筋炎により突然倒れ試合中断という痛ましい事態が起こります。即座の処置の甲斐もあって最悪の事態は避けられましたが、現在もドストは復帰できていません。

ドスト不在により出場機会が再び得られたのは不本意な面もあろうとは思いますが、小川さんはコンスタントに得点を続け、特に2ゴールをあげた11節フォレンダム戦と20節ヘラクレス戦ではMOMに選ばれる活躍を見せています。チェリー加入によってNECは攻撃陣に厚みが増しましたが、ドストも早く復帰してもらって更なる強力なチームとなってくれることを期待します。


佐野 航大
No.23 MF
出場試合/最大: 15試合/21試合 [71%]
出場時間/最大: 760分 (Ere:445, Beker:315)/1,890分 [40%]
先発/ベンチ: 7回/14回
フル出場: 5試合
ゴール:  0得点
アシスト: 1回 ※チェリー
イエロー/レッド: 0枚/0枚
交代(IN): 8回 ※ハンセン3回、タフサン、ロベルト・ゴンサレス2回など
交代(OUT): 2回 ※ロス、サンチェスとの交代

佐野さんについてはあまり確認する機会もなくなんとも説明ができないので、今後の放送で良い所を多く見つけられたらと思います。
加入してしばらくはベンチスタートのみで、出場時間も限られていましたが年明け以降はスタメンが定着しフル出場も増えてきました。今シーズンのNECは小川さんがいるのはもちろんですがシレセン、ハンセン、プロッペル、サンドレル、チェリーなど良い選手も多く(シェーネが最近試合に絡んでいない様子なのは残念)良い順位につけていてかなり好調。ベーカーもベスト4に残っているので、チームとしても成長が楽しみなところです。


ファン ウェルメスケルケン際
No.15 RB
出場試合/最大: 6試合/12試合 [50%]
出場時間/最大: 435分 (Ere:165, Beker:270)/1,080分 [40%]
先発/ベンチ: 4回/7回
フル出場: 3試合
ゴール:  1得点
アシスト: 0回
イエロー/レッド: 0枚/0枚
交代(IN): 2回 ※バース、ファン・ローイとの交代
交代(OUT): 1回 ※アーツとの交代

川崎Fに移籍したのでVW際さんを見るのであればDAZNに加入しましょう。
ドルドレヒト、カンブール、PECズウォレとキャリアを積んだ山梨育ちの選手は去り際にとんでもないワールドクラスのゴールをナイメーヘンに残していきました。カンブールを去ってから暫く所属がわからない時期もありましたが、突然NECに加入して助っ人としての役割を十分に果たしてくれました。フロンターレでの活躍にも期待したいです。
Rokuというズウォレの寿司屋を経営したりもしていましたが調べてみたら破産していたようです。あまり良くない話も聞きましたし、触れてほしくない過去かもしれません。
エールディビジの日本人選手 2023-24_c0193059_09300130.jpg


Sparta Rotterdam (エールディビジ 10/18位)
監督: Jeroen Rijsdijk
斉藤 光毅
No.11 FW
出場試合/最大: 8試合/23試合 [35%]
出場時間/最大: 536分 (Ere:536)/2,070分 [26%]
先発/ベンチ: 7回/1回
フル出場: 1試合
ゴール:  2得点
アシスト: 1回 ※フェルシューレン
イエロー/レッド: 0枚/0枚
交代(IN): 1回 ※三戸舜介との交代
交代(OUT): 6回 ※Anello 3回、ネグり2回など

昨シーズンからスパルタでプレーし、チームの上位進出に貢献。今シーズンはポジションを確保どころかキングのような立ち位置にも思えます。キングというよりはプリンスといった印象もありますが。
2シーズン目の活躍も期待された中、6節のフィテッセ戦にておそらくハムストリングを負傷。それと関係してかどうか手術が必要な状態だったようで結局4ヵ月、14試合の長期離脱となってしまいました。1月27日にようやく三戸さんと交代する形で復帰。その後は再びスタメンを確保しています。
子気味良いドリブルとミドルレンジのシュートが印象的。チームも悪くない位置をキープしていますし、復帰した後半戦はきっと活躍してくれることでしょう。


三戸 舜介
No.7 FW
出場試合/最大: 5試合/5試合 [100%]
出場時間/最大: 339分 (Ere:339)/450分 [75%]
先発/ベンチ: 5回/0回
フル出場: 1試合
ゴール:  1得点
アシスト: 0回
イエロー/レッド: 0枚/0枚
交代(IN): 0回
交代(OUT): 4回 ※メティーニョ3回、斉藤光毅1回

この冬加入の三戸さんはデビュー戦からスタメン出場。HTでの交代とはなりましたがその中で前半33分に早速ゴール。インパクトを残し、その後もスタメンが続いています。
最近は金髪にしたことで、かつてフローニンゲンで活躍していた堂安氏に雰囲気が被ると一部エールディビジ界隈で話題に。まあそれは本当に一部の感想ではあるのですが、確かにやってくれそうな勢いを感じます。



FC Volendam (エールディビジ 17/18位)
監督: Matthias Kohler → Michael Dingsdag → Regillio Simons
長田 澪(ミオ・バックハウス)
No.1 GK
出場試合/最大: 22試合/22試合 [100%]
出場時間/最大: 1,980分 (Ere:1,890, Beker:90)/1,980分 [100%]
先発/ベンチ: 22回/0回
フル出場: 22試合
ゴール:  0得点
アシスト: 0回
イエロー/レッド: 2枚/0枚
交代(IN): 0回
交代(OUT): 0回

オランダメディアは彼のことを日本人としては認識していない模様。おそらくドイツ人扱い。ただし先日日本で記事にもなっていたように、日本代表の方向性も十分にあるようです。
19歳ながら正GKで全試合フル出場しているのがまず素晴らしい。フォレンダムは32歳と若いマティアス・コーラー監督が指揮していたのでチームとしてどんなプレーをするのか気にしていたクラブでもあったのですが、成績が伴わなく解任となってしまいました。
フォレンダムは現在エールディビジで最も失点の多い52失点。そこでフル出場しているGKということで、"エールディビジで最も失点数の多いGK"という不名誉な状況に置かれていますが、GKとしてのプレーぶりは少し見た限りでは比較的安定している印象です。
監督が交代しても守護神の座は変わらずなのでよっぽどのことがなければこのまま後半戦も出場を続けることと思います。チームが残留できるのかという目線も込みで、次世代の代表GK候補をチェックするのも良いかもしれません。フォレンダムの試合が放送あるのかどうかはわかりませんが。

FC Den Bosch (KKD 18/20位)
監督: Tomasz Kaczmarek
池下 由也
No.4 MF
出場試合/最大: 22試合/26試合 [85%]
出場時間/最大: 1,363分 (KKD:1,290, Beker:73)/2,340分 [58%]
先発/ベンチ: 16回/9回
フル出場: 6試合
ゴール:  1得点 
アシスト: 1回 ※Kacper Kostorz
イエロー/レッド: 6枚/0枚
交代(IN): 6回 ※Shalva Ogbaidze 3回など
交代(OUT): 10回

ユトレヒトの下部(ヨング・ユトレヒト)に日本人らしき人がいると数年前から気になっていたのですが、オランダメディアでもTransfermarktでも国籍はオランダになっていたので日本人扱いで良いのか、名前はどんな漢字になるのか、ずっと謎だった選手。改めて調べたらようやくそれっぽい情報見つかりました。
たしか最初はアヤックスのユースにいたのですが上に上がれずユトレヒトへ行ったとか、そんな流れだったと記憶しています。親が駐在員だった説を勝手に提唱していたのですが、両親が日本人ということなので本当にそうなのかもしれません。
ヨング・ユトレヒトではキャプテンマークを巻くことも多くコンスタントに活躍していましたがトップへ上がる前に今シーズンから同じKKDのカテゴリーであるDen Boschへ。開幕からスタメンを獲得し、ヨングPSV戦ではゴールも決めていたりもするのですが、11月以降はベンチスタートが増えてしまっている状況です。チーム自体も成績が悪く下位に沈んでおりなかなか厳しいですが、VM際さんのようにオランダで経験を積んだ選手の日本凱旋など見てみたい気もします。KKDなので試合は見ることはできないのですが今後も注目です。

以上、今シーズンオランダでプレーする9人の日本(にゆかりのある)人でした。放送ではどの試合が選ばれるのか未知数ですが、恐らく日本人選手のいるクラブが中心になるかと思います。アヤックスを毎節放送!みたいなことは無さそうですが、1節あたり3試合放送が見込まれるということでエールディビジ・ラヴァーにとっては遂に人権が与えられたという感覚です。これを機にエールディビジに興味を持つ人が少しでも増えれば良いなと思います。

# by ajacied | 2024-02-16 09:36 | その他

傲慢回帰 〜2021-22中心にテンハフアヤックス4年半を振り返る~   

2021年 12月 02日

2021-22シーズンも終わってだいぶ経ち、2022-23の開幕も目前といった中で今更感もありますがアヤックスのシーズンまとめ。
明確に想像できていたわけではないけれど、開始時点からエリック・テン・ハフ監督の集大成の1年になるだろうという雰囲気があった2021-22シーズン。そんな予感もあったのか、個人的にもシーズン序盤に高まった期待から展望らしきものをしたためたこともあったくらいで。
2021-22シーズンのまとめとしては、それがどうなったかという答え合わせと、予感の通りアヤックスを去ることとなったテンハフ監督の振り返りという監督中心の形でいきたいと思います。
いつも時間が経つとどんな特徴のチームだったか忘れてしまうので、自分用の概略メモくらいの感覚で。これまでの流れ、2021-22シーズン陣容とチーム戦術、結果のおさらい、テンハフという監督へのお気持ち表明、全体的にお気持ち表明といった流れの内容となります。

傲慢回帰 〜2021-22中心にテンハフアヤックス4年半を振り返る~_c0193059_16271958.png

シーズンに入るまでの流れ

過去まで振り返るのはしつこいかもしれませんが、重要なところなので何度でも。
といってもペーター・ボス時代からにしましょう。それより前は欧州の舞台で全く存在感が出せない時代があるのですが、2010年頃からの改革と2016年の監督交代によるチームの変革が今に繋がっています。それまではフットボールの商業化であったり戦術パラダイムシフトであったり、アヤックスに限らずオランダ全体が欧州の最先端からだいぶ取り残されてしまっていた印象があります。UEFAのカントリーランキングでもオランダは7位あたりを定位置としていたのが、一時はベルギー、ウクライナ、トルコ、チェコ、オーストリア、スイスなどに抜かれて14位くらいまで落ち込んでいた時期もありました。
オランダ全体が沈んでいた中、ペーター・ボス時代からカウンタープレスを導入しつつ、アヤックスは結果でも内容でも欧州に爪痕を残せるようになったこともあり、現在のチームの礎となっているという感覚を個人的に持っています。

傲慢回帰 〜2021-22中心にテンハフアヤックス4年半を振り返る~_c0193059_04341313.png

そういった流れを引き継いだテンハフ監督。テンハフ監督といえばCL決勝まであと一歩というところまで辿り着いた大躍進の2018-19ですが、この頃のメンバーは就任以前にトップへ引き上げられた選手たちでテンハフが育て上げたという印象はやや薄いと感じます。また、ボス監督による5秒ルール指導で即時奪回もインストール済みということで、ボス監督などと比べるとだいぶお膳立てが整っていたという面は評価をするにあたって考慮が必要かとは思いますが、手持ちのピースでパズルを組立て素晴らしいチームを作ったのは彼の手腕でしょう。特にタディッチの偽9番は目を引くところでした。

2018-19以降の2シーズンは不運もありCLやELで思うような結果が出せたとは言い難いですが、CLベスト16へ進むチャンスも十分あったことを考えると、"主力が引き抜かれて弱体化"と一言でまとめてしまうのはやや雑かなという気はしています。とはいえ、躍進の翌年に勝率が落ちているのを見ると、戦力低下があったもののまた持ち直したと見ることもできるのかもしれません。タディッチの偽9番一本では手数も限られ対策もされ易くなる中、チーム再編成に試行錯誤していた様子も伺えました。そんな状況にあって、2021年に入り待望の出来事が。

セバスティアン・アレーの獲得。

久しくいなかった純粋なスピッツ(CF)です。アヤックスには頼れる漢フンテラールがいたのですが年齢的にもスーパーサブの位置付けで、他の選手もラシーナ・トラオレやブロビーといった発展途上の若手だったため、完全にスタメンで定着したスピッツはここのところ不在でした。
アレー獲得の年は登録を忘れてしまったことでEL出場ができなく、その影響からか4月にはローマに敗れて欧州の舞台から姿を消してしまいましたが、その方で国内リーグでは2位に大差をつけて優勝。多少余裕もある状況もあり、アレーをトップに添えた2021-22シーズンの下地作りが昨シーズン後半から始まっていたのです。



2021-22アヤックスの陣容

戦力の流出は控えメンバーのみという最低限の状態におさえてはじまった2021-22。主力級の加入としては、実力十分のベルフハウスと、昨年オナナがドーピング判定で長期の離脱を強いられ手薄になっていたGKのテコ入れ。ベテランで安定したパフォーマンスを見せていたパスフェールと若手のホルテルでGKを補充しました。
序盤こそアントニーが東京オリンピック出場などで不在、正GKの予定だったステケレンブルフが8月に怪我で離脱という戦力が完全に揃わない状況ではありましたが、GKはパスフェールが代役を務め、アントニーも復帰した9月には、ベルフハウスを10番の位置に添えたベストと思われる布陣が既に完成。昨シーズンの準備をほぼそのまま継続して挑むことができました。
戦術面に触れるのは特に苦手ですが、いくつかの局面ごとに見ておきたいと思います。
傲慢回帰 〜2021-22中心にテンハフアヤックス4年半を振り返る~_c0193059_02375217.png



■左右の攻撃の形、アントニー

アヤックスはポゼッション率を高く、相手を圧倒して美しく勝利するのが伝統的なスタイル。2021-22のオフェンスにおける特徴も、アヤックスらしくボールを保持して押し込むことでした。相手によって微調整はあるものの、基本的な姿勢はどんな相手でも変わらず、ぶれずにいきます。

ハーフコートのサッカーになるほどに人数をかけて押し込むのですが、その方法としては簡単に言うと、左サイドは複数人でポジションを変えながらパス回しをして侵入、右サイドは縦の突破という攻め方が多く、これはいずれもアントニーという個人の質を活かした攻略の仕方だと言えるかと思います。

アントニーはボールタッチがテクニカルでアジリティが高く、そして左足が強烈。1番の形はカットインからの左足で、同じようなゴールが何度となくありました。シュートに持ち込めなくても高精度・高速の左足クロスや敵陣深くに侵入してのクロスでアレーやその先のタディッチに合わせます。基本1対1では負けない上にマズラウィとのコンビネーションも抜群のため、相手は人数を揃えない限り守るのは困難でした。
右サイドはこれを活かすべく、できる限りスペースを作り少ない人数で突破を図ります。


個の突破力を全面に押し出した右サイドとは異なり、左サイドはパスワークが主体です。タディッチ−ブリント−フラーフェンベルフのトライアングルでポジションを変えながら敵陣深くに侵入。これにアレーやベルフハウスも寄ってきて、相手DF陣を混乱に陥れるか、または相手も左サイドに寄ってきたところで右サイドに展開するなど。アヤックスの攻撃の展開はどちらかというと左サイドから行うことが多かった印象があります。
左サイドから組み立てる際にはアントニーは右に張っているため、左サイドの密集から右へ展開するという形も多くみられました。また、右に展開できずともアントニーのポジショニングは相手DFのチャンネルを開かせる役割を果たしています。その開いたチャンネルをベルフハウスやマズラウィが使うといった攻撃が展開されました。

左サイドに人数かけてオーバーロード気味にしていたのは、選手達の特性もあったとは思いますが、アントニーという個を最大限に活かすためのスペース作りの意味で理にかなった方法だったように思います。

傲慢回帰 〜2021-22中心にテンハフアヤックス4年半を振り返る~_c0193059_15193390.png
左サイドはコンビネーション、右サイドは個の突破が主な攻撃パターン



■ビルドアップ

ビルドアップはティンバーとマルティネスの2CBとアルバレスの3人が主体。GKもある程度入りますがパス回しにはあまり加わらなく、ボールを受けてもセーフティに大きく蹴ってしまうことも。これはパスフェールやステケレンブルフが足元苦手というよりは(普通に上手いです)、蹴った先にアレーがいるというのが大きいのだと思います。繋ぐ選択と相手プレスを飛び越す選択。ボールの扱いが上手い2CBだけでも捕まえるのは困難なところですが、より狙いを絞り難くする効果もあったのではないかと思います。

勿論、ビルドアップには両SBや8番のフラーフェンベルフも加わることもありますが、右サイドのマズラウィはCBと同じラインまで落ちずにMF化して受けることが多い印象。マズラウィはビルドアップから最後のハーフスペース侵入まで、常に良いところに顔を出す賢い選手だと思います。CL初戦のスポルティングCP戦(1-5勝利)が個人的には印象的で、相手プレスの回避先として機能していました。

ほぼ全員が足元の技術もあり、ティンバーなどCBもドリブルで持ち運ぶことができる。ブリントやマルティネスはパスも得意で縦へつけるパスやロングレンジのパスを通すことができる。また、誰が最終ラインに落ちてビルドアップに加わるなど特定の形が決まっているわけでもなく、状況に合わせてポジションを変えながら行う多彩なビルドアップが、前線へ人数をかけていくために準備されています。



■ネガティブトランジション

アヤックスが得点するにあたってどこからとるか?というときに、やはりネガトラからのショートカウンターが最大の狙いだとは思います。相手DFが整わない隙が得点率高いので当然のことかと。ただ、特に2021-22シーズンについては、ショートカウンター狙いで抜け出す人員を配置しているというよりは状況で行けたら行くくらいのノリのような気はします。どちらかというと高い位置で即時奪回し、また人数をかけて次の攻撃の繰り返し。うまくいっているときは相手に攻撃するための持ち運びすらさせず、まるで相手に息つく暇を与えずに窒息させるような押し込み方をしていきます。

相手にボールを奪われた瞬間、ボールホルダーを周囲の選手が囲う形で即時奪回が成るわけですが、攻撃時から相手を囲う配置を気にしているかというと、これには少し疑問符がつきます。というか自分には意識しているかどうかまでは見れていなくわからないのですが、どちらかというと人数をかけて仕掛けている分失った際には自然と相手を囲める位置に人が揃っている、というような感じではないでしょうか。



■被カウンターへの対応

攻撃時に人数をかけるならば、失ったときのカウンターが最大の弱点。アヤックスは攻撃の際にSBのどちらかが残っていればまだ良い方ですが、2CBとアルバレスの3人しか残っていない状況も多いです。
トランジションの際にいくらアヤックスがボール保持者を瞬時に囲もうとしても抑えられる範囲には限度があるし、相手もなんとか前に出して前線に少ない人数で残る選手に繋げようとしてきます。
ここでボールの行先に現れるのがアルバレス。攻撃時から準備をしているのか、危険な場所を察知してカウンターの起点になる前の段階でかなり潰してくれます。ネガトラにおける相手のボール出口に蓋をするのがアルバレスの役目、ということになります。

アルバレスのチャレンジが失敗した場合やアルバレスを越すようなボールの場合はどうなるか。アヤックスは2人しかいない状況でピンチです。そしてこんなピンチは割とよくあります。
そんな状況では、とにかくCBのティンバーとマルティネスに頑張ってもらいます。
この2人はCBとしては小柄ですが、スピードがあり対人でも闘えてそれなりに強い。カウンターを受けても意外と止めてくれ、奪いきるか帰陣した味方にボールを回収してもらい事なきを得ます。

最後の砦が根性論に近いようにも思いますが、この2人がいるからこそ攻撃部分で無茶ができているのではないかと思います。



■プレッシング

最後に、セットした状態からのプレッシングについて。形としては4-3-3。相手の形による部分もあるとは思いますが、よくある形は前線の3枚で制限し、その後ろの2枚で中央へのコースを塞ぐ形。2-3のラインでシールドを形成します。
傲慢回帰 〜2021-22中心にテンハフアヤックス4年半を振り返る~_c0193059_15240927.png

ボール奪取で重要な点は選手の距離感でしょうか。シールドの内側にボールが入ればプレスバックも交えてすぐに取り囲んでボールを奪いにいく。サイドから抜けようとしたらSBがチェックしてWFとIHも加わって囲みボール奪取。三角形で取り囲む感じなのでコンパクトに保つ必要があります。

このシールドとサイドバックによるチェックの網を抜け出された場合については、アルバレスがあたる、場所によってはCBも対応。ということで、被カウンターのやり方と似ていますね。ボール保持者にスペースと時間を与えないコンパクトな守備。そこから抜け出されたときのエリアについてはアルバレスと2人のCBでなんとかしてもらう、というような形になっています。

このプレッシングはとてもよく機能していたと思います。高い位置で奪えることも多かったですし、割と攻撃的な守備の分類な気はしますが、結果的に失点数も少なかったです。(47試合で29失点。クリーンシート28回)
 ・
 ・
 ・
いくつかの局面に分けてかなり雑に見てきましたが、総じて、選手の能力に合わせて非常にロジカルに設計されているのではないかと思います。
安永解説員が番組で、1対1に強くスピードのある2人のCBがアヤックスのシステムを支えているというようなことを仰っていましたが、まさにその通りだなと納得したことがあります。きれいに繋いで崩す、前線のプレスで奪ってショートカウンター。そういった攻撃的な面もCBの能力あってのことかと思います。


…と、締めようと思ったのですが、待望のスピッツ!と言った割にアレーの重要さに触れていないことに気が付きました。
まずは上述の通り、ビルドアップが苦しい時の逃げ道という点でハイボールをそれなりに収めてくれるアレーの存在は大きかったはずです。アレーがいなければもう少しビルドアップにも人数をかけて丁寧に組み立てる必要もあったかと思います。

また、攻撃に関しては基本的に最終的にアレーに得点を取らせるという形で組み立てられていたように思います。ボール保持して崩していく段階ではゴール前にはアレーがいるような形となっており、両サイドからのクロスも多いのが2021-22アヤックスの一つの特徴。アレー加入前と比べてクロスはかなり多くなったという感覚を持っています(データがないので説得力に欠けますが)。得点力の高いアレーがいることで相手のCBも引き付けることができるため、そこを周囲の選手が突くという点でも効果的でした。また、クロスにしてもアレーの先にいるタディッチやマズラウィなどが得点することも多く、記録には残らない点でもアレーの存在は大きかったと思います。

「アヤックスのスピッツには多くの能力が求められる」とはよく言われていることではありますが、アレーはその要求に答えられるだけの十分な能力を持っていたと思います。
ちなみに、単独突破はそれほど得意ではないのですが、5-0で大勝したPSVでのアレーはゴールから離れた位置でキープして突破もするなどスーパーな活躍も見せてくれる、クールで頼れるCFでした。



世界の注目を集めた前半戦と失速の2月

アレーというスピッツを加えて前シーズンから準備を進め、ほぼ完成された形で入ったシーズンは、ほぼ完璧な出来でクリスマスを迎えます。
12月末時点の戦績は25試合で20勝3分2敗。80得点9失点で、1試合当たりに換算すると3.2得点0.36失点という驚異的な数字。

特に賞賛されたのはCLの舞台における戦いぶり。グループステージ6連勝で20得点5失点に加えて、アレーのCLデビュー以来6戦連続得点とこれ以上ない出来でした(年明けに7試合連続得点まで記録を伸ばす)。
怪我前のハーランド擁するドルトムント戦では強力な攻撃陣相手に勇敢な守備で無失点に抑え、多くの注目を集めました。ドルトムントは結局スポルティングCPの後塵を拝しグループステージ3位、ELに回ってもジオ監督率いるレンジャーズに負けてしまい強敵の位置付けとして良いのか疑問も生じたものの、少なくともアヤックスとの対戦では、縦に早い攻撃力は非常に脅威だと感じました。
ドルトムントとの2戦は、トップクラスの相手に完勝した、というのは言い過ぎかもしれませんが一つの指標にはなったかと思います。

CLベスト4になった18-19シーズンよりもポテンシャルは高いとも言われ、期待値は本当に高かった。あの時期のアヤックスは本当に強かったと今でも思います。



しかし、、、
年が明けて2月以降は急激に失速。中でもCLのトーナメントでベンフィカに破れたのは、しばらく立ち直れないほどのショックでした。年末から高まってきた期待の通りとはいかず、トーナメント初戦であえなく敗退。ベンフィカも素晴らしいチームだったのは疑いようもないですが、世界のトップオブトップとして注目されているようなチーム相手にどんなスペクタクルな戦いを見せてくれるのか。それを見ることが叶わなかったのは今でも残念です。

更にその後、国内カップ戦の決勝でもPSVに敗れ、タイトルは国内リーグを残すのみ。そのリーグすらもPSVに肉薄され急激に勢いを失います。
とはいえ、危うい試合をなんとか終盤で勝ちに繋げるというアヤックスらしくない粘り強さを見せたり、リーグ終盤に中盤ダイヤモンドの4-4-2へのシステム変更で流れを引き寄せ、リーグ優勝だけはなんとか手にすることができました。


ひとつタイトルを取れたことは喜ばしいことではあるものの、前半戦の出来から比べるとやや物足りなさを感じるシーズンとなりました。




失速の理由を考える

失速してしまった原因は何か。大きく5つの要因が思い浮かびます。
① 監督引き抜きの噂
② オーフェルマルスの不祥事
③ 相次ぐGKの離脱
④ 早すぎたピーク
⑤ テンハフ監督の選手起用法


① 監督引き抜きの噂
② オーフェルマルスの不祥事

まずあげられるのが周囲の環境要因。マンチェスター ユナイテッドのラングニック監督がこのシーズン限りということで、後任候補としてテンハフ監督がリンクしだしたのが12月頃。最初は英タブロイド紙の報道で信ぴょう性もそれほどという印象でしたが、徐々に騒がしくなっていき、結果的にシーズン途中の4月に就任が発表されました。

この騒動に加えて大きなインパクトを与えたのがオーフェルマルスの"Dirty Uncle(Horny Cousin)"事件。アヤックスのTDとして移籍金ビジネスでも功績を残していたオーフェルマルスが複数の女性社員にセクハラ行為を行っていたことが2月に発覚して退団へ。オーフェルマルスは前述したアヤックスの改革における中心人物であるうえに、今でも選手との折衝において重要な役割を担っていただけにアヤックスにとって替えのきかない存在ではありました。しかし、自分の局部画像を送り付けるなど完全にアウトな内容で、クラブを去る以外の選択肢はありませんでした。

タディッチをはじめとした多くの選手もテンハフ監督もオーフェルマルスとは親交が深かったためショックは大きかったようです。メディアに対するインタビューでも「やったことは許されることではないが、友人であることは変わらない」というスタンスは崩さず、被害者への配慮との板挟みに悩む様子が伺えました。

これら周囲の雑音がどの程度パフォーマンスに影響を与えたのかはわかりませんが、ちょうど結果が落ちてきた時期に、ほぼ同時期に発生していた出来事。監督移籍の件は、後に「当初はまだ実際にそんな話はなかった」と監督も言及していましたが、これら2つの出来事によって監督と選手の集中力は大いに乱されたことが想像されます。



③ 相次ぐGKの離脱

ステケレンブルフがシーズン早々に怪我で離脱した件にはスターティングXIのところで触れました。そこはパスフェールが完璧かそれ以上に埋めたのですが、CLのトーナメント、ベンフィカとの1stレグでパスフェールも指の骨折という事態となってしまいます(試合前の怪我だったのに1試合プレーしきった模様)。第3GKは若いホルテル…なのですがこのタイミングでホルテルが怪我で離脱中。
この緊急事態で選択肢は、1年近くの出場停止処分を受けて9月から練習再開していたオナナか、またはJong Ajaxでプレーしている若手を抜擢するか。(アヤックスは緊急でベテランのティトンの獲得もしましたが、すぐには間に合わないので、あくまで更なる最悪への保険です。)

ファンの心理としては(いろいろあったので)複雑ですが、テンハフ監督が選択したのはオナナ。

前の年にもGK不足に陥り、若手のスヘルペンを起用したものの大事な場面でEL敗退に繋がるミスがありました。そのため、もしホルテルの怪我がなくても、もしかしたらオナナを起用していたかもしれません。

いずれにせよオナナでいくことに決めたわけですが、最終的に戦績を振り返ると下表の通り。オナナ出場試合で敗戦の一つはCLベンフィカ戦だったことを考えると勝星を落としたというわけではそれほどありませんが、明らかに失点は増え、試合内容も不安定なものとなっていました。

傲慢回帰 〜2021-22中心にテンハフアヤックス4年半を振り返る~_c0193059_02101430.png
2021-22公式戦における出場GKごとの結果

とはいえ、GKの明らかなミスというのは恐らく1つか2つ程度。実はこの時期は主力選手の離脱も重なる不運(⑤で触れます)もあったのでオナナの責任はどの程度かというのは難しいところですが、簡単に失点を許したという印象は強く残りました。
これは余談ですが、失点増加の印象とその批判に対するオナナのコメントは、まだ多少なりとも残っていたかもしれない2018-19の功労者オナナに対する未練を絶ち切るのに十分過ぎるほどの役割を果たしました。



④ 前半戦の強すぎたアヤックス、早すぎたピーク

シーズン前半戦は国内外含めて圧倒的な強さを誇ったアヤックス。5-0の試合も複数回あり、中には9-0という結果も。そうなるともちろん相手に分析されたり警戒されるわけですが、徐々に2つの方向性からアヤックス対策が出来上がっていきます。

1つは、とにかく引いて守ること。フットボールをさせないこと。
0-0狙い、あわよくばカウンターで得点を狙う戦い方は実力差のあるエールディビジにおいて以前から普通に見られたことですが、2021-22シーズンは引き気味でプレーする相手が特に多かった印象です。

ペップ・グアルディオラはCLでアトレティコと対戦した後に、「彼らは5-5-0でプレーしてきた。攻撃するのは非常に難しかった」と語っていました。リトリートを決め込んだ相手から得点を奪うことは,当然ですが難しいのですね。
エールディビジで見られたのはさすがにそこまで極端ではなく、5-4-1でカウンター要因は残した形でしたし、アトレティコほどの固さもないとは思います。とはいっても毎試合そうした相手を攻略しなければならないのは骨の折れる作業です。

とくに顕著なのが、エールディビジでは珍しく多様な守備戦術を持つダニー・バイス監督率いるフローニンゲン。アヤックスとの対戦で、いわゆる"ヘタフェ戦術"を採用。簡単に言うと、ちょっとしたファウルや時間の浪費でフットボールをさせずに相手をイラつかせる手法で、数シーズン前にアヤックスがEL敗退に追い込まれたやり方です。オランダでは特に好まれないやり方とは思いますが、「ロジカルな判断ではないか?もしアヤックスのハイペースに合わせたら9-0になっていただろう。」と、少しでも勝点の可能性を上げるために嫌われる手法を採用したことを隠そうともしていませんでした。

フローニンゲンには3-0で勝ったのですが、トゥウェンテ、GAE、ヘラクレスやスパルタなど守備的な布陣を敷く相手に勝点を落としたりロースコアの僅差だったりと、厳しい試合を強いられました。

傲慢回帰 〜2021-22中心にテンハフアヤックス4年半を振り返る~_c0193059_05454239.jpg
0-0の結果は少なかったものの守備的な相手を打ち破るのに苦戦したアヤックス


そしてもう1つのアヤックス対策はキーマンであるブリント潰し。アヤックスに黒星をつけたユトレヒトを参考にAZが実行したという方法。ピッチ上の司令塔であるブリントに対して考える時間を与えない狙いがあったようです。

シーズン開幕早々にベストな布陣を確立したものの、同じやり方で勝ち続けられるほどにはさすがに甘くなかったようです。アヤックスというだけで警戒され、分析もされるのですが、好調すぎたことも相手の警戒心を増幅させることに繋がってしまったようにも思います。
チームとしてのピークをシーズン後半に持っていくようにマネジメントした方が1年を通して良い結果に持っていけるのかもしれませんね。コントロールできるものでもないのかもしれませんが。



⑤ テンハフ監督の選手起用法

最後は監督としての手腕に大きく関わる点。基本的に自分はテンハフ監督はアヤックスを再び高みに引き上げてくれた疑いようもなく最高の監督というスタンスではあるのですが、多くの人が言及していたようにローテーションをほとんどしないという点は、アヤックスにおける采配を見ている限りでは気になるポイントであったかと思います。
一度気になって調べたことはあるのですが、一応徐々に改善方向にはあったようにも見えます。ただもしかしたら単に怪我人の数が影響しただけの可能性も。
強かった2018-19シーズンも固定の11人でかなりの試合を戦いきった感がありますが、逆に言うと怪我なく乗り切れれば良いシーズンを送れるということなのかもしれません。テンハフ監督のローテーションが改善方向に見えたのも単に怪我の功名(字面通り)だったのかも。

怪我に関して、2021-22アヤックスにおいては相次ぐGKの離脱が最も痛手だったのは言うまでもないですが、終盤のアントニー離脱というのも失速感に大きく繋がっていたように思います。また、最も調子を落としていると感じられた時期にはGK問題があっただけでなく、ティンバーやマズラウィもマイナーな怪我で不在となっていました。


エールディビジは力の差が比較的大きいリーグだとは思うのでローテーションしながらやりくりすることも無理なことではないと思います。フォルトゥナのウルテー監督も「控え選手がプレーしたとしてもアヤックスは素晴らしいチームなのにベストの布陣で戦ってきた。」とため息まじりのコメントを残しています(フォルトゥナとは2回の対戦でどちらも5-0)。


なぜローテーションをしないのか。


"次の試合が常に最も重要で、その時の最強のラインナップを選択する"というテンハフ監督の信念とも言える考えがあるようです。
先に控えている代表戦も考慮しているし長期的な視点ももって考えている、とも語っていましたが、プレーするほどどんどん良くなっていく選手もいるという中で、最終的には直近の試合にベストを尽くす形となっているそう。

これは良い面と悪い面の表裏一体。特にアヤックスは若手を積極的に起用して育てることも求められ、ベンチにはそういった選手も多く含まれます。なので長い時間プレーさせてきたメンバーが離脱したりパフォーマンスが落ちた際に「重要な局面で使うにはまだ経験が…」となりがち。
連携という面でも、長く一緒にプレーしているメンバーと交代した選手とでは少なからぬ違いがあるように感じます。というより、スタメンの特徴に合わせて設計しているので、特徴の異なる部品に交換したらその製品の機能が十分に発揮されないというか。手持ちのピースでパズルをつくるのはとても得意だけどきれいにはめ込みすぎて交換には枠から全部つくりなおさないと、みたいな。どんなチームにも多かれ少なかれあることとは思いますが、2021-22のアヤックスにおいては特にその傾向が強い印象を特に持ちました。

傲慢回帰 〜2021-22中心にテンハフアヤックス4年半を振り返る~_c0193059_05384382.png
Played:1分でも出場した試合数  Subs:ベンチで出場機会のなかった回数
Playing Time:出場時間(min)

出場時間をみてみると、特にタディッチとブリントは何があっても起用するという強い意志を感じます。特にブリントについては一時期不調な時期があり、スピードの無さを突かれる、ボールロストが多い、失った際もスピード不足ですぐに奪い返せないといった批判もありましたが、守備方法の変更や周囲のカバーで対応して起用を続けていました。
コンディション的には問題なくできていたというのも使い続けた理由かもしれませんが、年齢的な面もあまり考慮せず使い続け、不調になっても代えられない状況を作ってしまった。前半戦の好調な時にその準備に対して優先度を低くしてしまったことが失速に繋がってしまったように感じました。結果論ですが。



そんなこんなで、失速した理由については後から考えればいくつか考えられ、アヤックスというクラブにおいてはここが一つの壁だな、とも感じてしまいます。
まずそもそも、CL上位常連のようなクラブと比較して資金調達が難しく、選手を惹きつける魅力にも乏しいオランダリーグにあって、トップレベルのチーム力を持つこと自体が難しいミッションではあるのですが、そこに"若手を育成しながら"という制限がつく。更に"美しく勝利"することまで要求される。
アヤックスは近年、ベテランを混ぜることでチーム力を上げつつ、ポイントポイントで若手を加える方向に向かい成功しましたが、突出した若手以外はどうしても出場機会は限られてしまうというジレンマがあります。チームレベルが上がっていく中で、そのレベルを維持しながら若手を積極起用していく。そうしてベンチまで即戦力の状態にもっていくのは不可能に近いことのように思えてしまいます。控えメンバーも若手育成という名目だけでプレー時間が減らされることには納得もいかないでしょうし。

そういう意味ではCLで対戦したベンフィカは興味深いクラブでした。ベテランも多い中、トップクラスにまで行き着くようなレベルの高い若手を定期的に排出している。5大リーグでない中にあって継続してCLでも結果を出す。アヤックスと異なるのは、綿密な守備組織で戦うというところでしょうか。攻守における戦術理解度の高さも後のビッグクラブでの活躍に繋がっているのかもしれません。
きっと似たような悩みもあるのだろうなということは想像できますが、同じように若手の育成と試合の結果を求めるアヤックスとしては参考となる良いクラブだと思いました。



テンハフ監督がアヤックスにもたらしたもの

「商業クラブでありフットボールクラブではない」
ファン・ハール氏が、かつて監督を務めたクラブをそう揶揄してテンハフ監督のマンチェスターユナイテッド行きの噂にネガティブな感想を表明しましたが、そうした声を聞くこともなく、シーズン中の予想よりも早い段階で正式な発表がなされてしまいました。アヤックス監督としては4年半で去ることとなりました。
監督として4年半は割と長い方ではありますが、この期間で彼は何をもたらしてくれたのか。

少し捻くれた表現をすれば、それは"傲慢さ"ではないかと思います。


アヤックスの試合で解説を務めた城福さんは、アヤックスのことを最先端の戦術だと言ってくれました。オランダは最先端から取り残されていて早く追いつかなければという感覚をずっともっていたのですが、気付けば最先端にキャッチアップし、比較されるところまで来ていることに、自分はそこで初めて気が付きました。
トレンドとして語られているような5レーンを埋めるような攻め方や、2020-21シーズンに一時期試していた両サイドバックを同時にMF化させて押し上げるというやり方など、他のリーグで語られているようなことを、それほどのタイムラグなく見られる環境になっていたという事実には感慨深いものがあります。

オランダ伝統のスタイルは攻撃時は広くというものでしたが、狭くするところは狭くし、密集もつくることでトランジションを効果的にし、相手への負荷も大きくするスタイルに刷新しました。バージョンアップされたこのスタイルはトータルフットボール2.0とも形容されますが、オランダと同じくクライフのトータルフットボールをベースにスペインで発展したものが既にトータルフットボール2.0と呼ばれることもあった中で、ゼロから立ち返って見直したとはいえ、後発であるにも関わらず2.0を名乗ろうとするのはなかなかの自惚れ具合です。

戦術面の遅れについて、オランダはコンプレックスのようなものすらあったように思いますが、ロクン(引き付ける)を中心としたトータルフットボールの再構築に成功し、我々こそが源流だと言える自信を再びもたらしたことはテンハフ監督の功績ではないでしょうか。


また、CEOのファン・デル・サールはテンハフ監督との別れに対して、「欧州地図にアヤックスを再び戻してくれた」といった表現を送りました。これはまさにその通りで、フットボールにおける自信とは他の何よりも勝利によってもたらされるものだと思います。欧州でも十分に戦えるという自信が、テンハフ監督のチームが結果を出し続けたことによって戻ってきました。

2018-19シーズンの終盤だったか、こんなタイトルの記事を目にしました。
The world fell in love with Ajax again.
他にも、"If you don’t love this Ajax team, you don’t love football. It’s as simple as that."といった表現も見かけます。アヤックスには多少傲慢な表現もよく似合う、などとオランダに詳しい中田記者も仰っていましたが、確かにそうかもしれません。テンハフ監督が就任する数年前までは、アヤックスが再びここまで復活する絵を描くのは難しく、諦めやシニシズムの雰囲気の方が勝っていたように思います。ボス監督の1年でやや希望に膨らむ表現もありましたが、それでも自分なんかは「CLと違ってELは勝ち進めるし楽しい!」くらいに思っていました。この4年半での自信の付け方、目標設定の向上は正直想定外。これまでは国内の優位性から傲慢さというものを理解したつもりでいましたが、欧州でも注目される存在に再びなったことで、傲慢だと言われるその真髄を見た気がします。



テンハフ監督とアヤックスはそれぞれの道へ

4年半の集大成だったはずが最後尻すぼみで、しかもシーズン終わる前に次の移籍先発表となって正直どうなんだというのはなくもないですが、テンハフ監督に対しては今のアヤックスにできる最大限に近いものを成し遂げてくれたという感謝しかありません。

ニュースで覗える範囲ですが、チーム戦術だけでなく、選手の伸び代を見極めてアドバイスをする、または選手に寄り添うことでその能力を遺憾なく発揮させる能力にも長けた監督でした。具体的には、マズラウィへの得点の要求、ティンバーにイニシアチブをもっと取れる余白があると指導したこと、アントニーへシュートとパスの判断精度向上を求めたことなど。過去にはユトレヒト時代に半ならず者だったボイマンスに対して声掛けなどで信頼を得つつ活躍させたこともあります。

過去に指導した選手や共に仕事をした仲間からも軒並み高い評価を得ています。高く評価する人のコメントが記事になっているという可能性はありますが。
既存選手で信頼を隠そうとしないのはタディッチ。
「彼は世界でもベストなトレーナーの一人。4年間でそれを証明した。どのビッグクラブでもフィットするだろう。」
「戦術的に信じられないほどに強い。常に相手の2歩先を行っている。彼ほどインテリジェントなトレーナーをほとんど知らない。テンハフは、より良い選手になるにはどうしたら良いか、いつでも尋ねに行ける監督。すべての選手にとって、テンハフと仕事ができることは特権だ。」
攻撃的で魅力的なフットボールを志向し、かつ小さな変更や戦術的トリックによってアドバンテージを与えられるといった戦術面について、何度もメディアで絶賛しています(同様に現フェイエノールトのスロット監督も優れているとも言っていました)。

それ以外にも、過去にはGAEの選手もインタビューで"出会った中で最高の監督"と言っていましたし、バイエルンⅡ時代のトビアス・シュヴァインシュタイガーも"若手だけでなく経験のある選手も伸ばすことができる"点など評価。
トゥウェンテで監督とアシスタントの関係だったスティーブ・マクラーレンも、トレーニングメニューを計画するあまりの早さに衝撃を受けたことを語っています。テンハフがいなければトゥウェンテはリーグ優勝できていなかった、とも。
勿論ボイマンスも「テンハフは本当のトップ・トレーナー。人に対する対処法をよく知っている」と、モチベーションを高めて活躍に導いてくれたかつての恩師に対する感謝を語っています。


攻撃でイニシアチブを握り圧倒するという戦術面の方向性はもちろんですが、テンハフ監督のそういった能力は、若手の育成だけでなく中堅・ベテランも組み合わせてチーム力を高める近年のアヤックスに、これ以上ないほどにマッチしました。
しかしながら、テンハフ監督は過去のインタビューで自分は攻撃的な監督かと尋ねられ、こう語っています。
「その瞬間ごと、状況ごとに違った指示を出して、選手に違うプレーをさせる必要があるのでそうは思わない。アヤックスのDNAに合わせる必要があり、他のクラブならばまた異なるかもしれない。」

アヤックスはテンハフ監督が在籍する間、これまでにないほどのファンタスティックなシーズンを送ったため、それが終わってしまうのは残念でもありますが、アヤックスとは異なるDNAを持つクラブ、控えメンバーも含めて質の高い選手を揃えられるクラブを率いたときにどのようなチームを作り上げるのか、また、プレミアリーグというエキサイティングなリーグでどのような戦いぶりをみせてくれるのか。さらに高い理想を魅せてくれるのかという点は純粋に楽しみです。

テンハフ監督はトップリーグのEPLで古豪再建。アヤックスはスフリューデル監督で同じ路線を継続。
この2つの流れについて、できる限り興味深く追っていきたいと思います。


【参考記事一覧】
Zo speelt het Ajax van Erik ten Hag
Tactical Analysis: Ajax vs Borussia Dortmund
TEAM TACTICS WITH OUR COACH | 5 Stunning attacks under Ten Hag |
TEN HAG WIL DOLGRAAG COACHEN LANGS DE LIJN IN LA BOMBONERA
Tadić: 'Ik denk dat dit team beter is dan ons elftal uit 2018-2019'
De lusten en lasten van het nieuwe Ajax-systeem
Ten Hag rouleert niet: 'De eerstvolgende wedstrijd is de belangrijkste'
Buijs staat achter 'Getafe-tactiek' tegen Ajax: 'Ja, dat is toch logisch?'
Ten Hag over verdedigende tegenstanders: 'Levert niks op'
Ten Hag baalt van Antony en Ajax: 'Maar we hebben niet verloren'
Ten Hag maakt de balans op: over de ommekeer, historische cijfers en kritische noten
Blind krijgt kritiek op spel tegen Go Ahead Eagles: 'Had vooral te maken met bereidheid'
Verweij verdedigt Blind: 'Maar er moet een moment komen waarop Tagliafico erin komt'
Tadic weet waarom Ten Hag gaat slagen bij United: 'Hij past bij elke grote club'
Het grote VI-kerstinterview: Tadic, Toornstra en Van Ginkel spreken zich uit
Tadic over tactisch sterke Ten Hag: ‘Door hem vooraf al op voorsprong’
Tadić blij met vele 'wapens': 'Ajax mag geen 'one trick pony' zijn'
De bevrijding van Ruud Boymans: 'Soms ontkende ik wie ik was'
McClaren: 'Zonder Ten Hag was Twente nooit kampioen geworden'
WHY TEN HAG CAN IMPROVE ALL PLAYERS
Het geheim achter de glansrol van Noussair Mazraoui
Álvarez werkte met skilltrainers: 'Moet aan de bal nog beter worden'
Ten Hag: 'Timber neemt steeds meer initiatief en dat is wat ik van hem heb geëist'
Martínez: 'Analyseren de tegenstander altijd uitgebreid, individueel en als team'
“Me fastidio cuando erro un pase”
Drie kenners over start Erik ten Hag: 'Hij komt binnen als grote meneer'


# by ajacied | 2021-12-02 07:20 | その他

アヤックス2021-22展望   

2021年 09月 27日

アヤックス2021-22展望_c0193059_04083434.jpg
シーズンも始まり、移籍市場も閉じてリーグ戦も既に7試合を終えた状況。今更シーズン展望も何もないのてすが、期待が高どまりどころか膨らみ続けて仕方ないので、今のうちに整理して、シーズン終了後に答え合わせといきましょう。
結論から言うと、今シーズンのアヤックスはこれまでの若手の宝庫というイメージとは一味違った、純粋にチームとして強く、面白い試合が期待できます。アヤックスファンはもちろん、そうでない人も今のうちからフォローして損はないと思います。Hulu(リーグ戦)とWOWOW(CL)のご検討を。
…と言っても、自分はEPLやCL、EUROのトップオブトップの試合すらも最近観てない人なのでそこまでお薦めできるかは自信がないです。見る目のある人がどう見るのか気になるので、そのためにも多くの人にアヤックスの戦いぶりを見てほしいと思ってる次第です。


■シーズン開始時点の陣容
まずは基本フォーメーションから。
アヤックス2021-22展望_c0193059_03595414.png
アヤックスと言えば、育てて売る育成型クラブ。若手の出場が多いことでも有名ですが、近年変化がみられます。
一つは実力者の獲得。タディッチ、ブリント、アレー、クラーセン、ベルフハイスが該当。UEFA大会における成功と若手売却で得られた資金、CLへの出場機会などを武器に、売ることを視野に入れない補強を推進しています。
そしてもう一つはコロナ禍による選手の残留。これまでは活躍しても移籍してしまうため、比較的短いサイクルでチームの作り直しを強いられていたのが、買う側の財政難のために売却できない状況が生まれました。それで残ったのがタグリアフィコとネレス。想定外の事態ですが、結果的に層の厚さに繋がっています。

スターティングXIの平均年齢は26歳超えと上がっていますが、20歳前後も数名加えてアヤックスらしさは辛うじて保ちつつ、スポーツ面での結果を追求する方針に向かっているのがここ数年のアヤックスです。


■2018-19以来の感触
メンバーを見るだけではピンと来ないとは思いますが、開幕後の好調もあり、オランダ国内でも評価は高く、早くも「どうやったらアヤックスを止められるか」という議論がなされている状況。CLベスト4まで行き惜しくも決勝進出を逃した2018-19シーズンに近いものを感じる、と高い期待も伺えます。

その2018-19の布陣はこんな感じ。
アヤックス2021-22展望_c0193059_03583921.gif
メンバーを見ると熱狂が蘇ってくるのですが、こうして改めて見て気付くのは、この選手層でよく戦えたなということ。怪我や疲労、出場停止があったときのバックアッパーが非常に手薄です。実際のところこのシーズンはほぼメンバー固定だったので、国内2冠とCLベスト4という結果は奇跡のように思います。


■柔軟性と、深化する監督戦術
危うさを孕んだ2018-19と比べると、今シーズンはより盤石。アントニーやアレー、タディッチ、ベルフハイスなどのクオリティもさることながら、ユーティリティ性も兼ね揃えた選手が多く、多彩なプレーか選択できるのが大きな強みとなっています。
ビルドアップでは相手に合わせて3DFや4DFで対応し、どこからでも際どい縦パスやロングパスが可能。SBは縦にも中にも行ける。ピッチ上の選手が取れるプレーも、監督が選択できる選手の幅も、柔軟性に富んだ布陣と言えます。

またテンハフ監督は、監督であればある程度普通なこととは思いますが、シーズン中に模索して最適解を探していく顕著なタイプかと見受けられます。上述の2018-19も、例えばタディッチは最初中盤の役割を担っていました。それがWFWの位置となり、CLのグループステージを通じて偽9番という解にたどり着きました。
かと思えば次のシーズンには、うまく機能している偽9番を封印してストライカーを据えた布陣を模索する。マルティネス-アルバレスのダブルボランチというある程度守備で機能する策を見出しては他の布陣へ移行する。
恐らく、様々な相手・状況を想定した準備ではないかと思っているのですが、毎回シーズン開始は模索している印象があります。機能していたのかどうかいまいち判断できないラビアドの偽9番なんてのもありました。
そんな中で、シーズン序盤からベストに近い布陣が見えるのは珍しいこと。各ポジションでも選択に迷う質の高い選手がいるのに加えて、過去に見出したタディッチ偽9番などもオプションとして控えていることになります。


■穴はどこにあるか
弱点を探すとすれば、GKとビルドアップ重視のDF陣は不安要素と言えるかもしれません。GKはステケレンブルフとパスフェールというベテラン勢。基本的には安心できるものの、パスフェールはスポルティングCP戦でのポカがありCLなどレベルの高い試合ではどうかというところが見えました。
守備に関してはアルバレスのところがもしかしたら替えがきかないところかもしれません。また、DF陣は高さやパワーで来られたときにアルバレスやスフールスといったところでどこまでやれるのか。怪我による欠場も含めて、やられるとしたらそのあたりではないかと思っています。


■監督の手腕に期待
テンハフ監督はローテーションはしない監督として知られています。

「直近の試合が自分にとってはいつでも最も重要だ。もちろん長期的視点は持っている。アフリカカップなどの代表戦などカレンダーも考慮してリズムをつくる。しかし最終的には直近の試合で最高のメンバーを選ぶ」

とのこと。そんな監督が今シーズンは交代枠を効果的に使っています。それだけ充実した戦力の表れではないでしょうか。


最後に有名どころの言葉を引用しておきましょう。

ピエール・ファン・ホーイドンク
「このアヤックスはCL決勝までいける可能性があると本気で思っている。組み合わせの幸運も必要かもしれないが。」

イブラヒム・アフェライ
「CLを優勝できるとは自分は思わないが、かなり先まで行けるのではないか。まずは準々決勝だ。」

テオ・ヤンセン
「かつてはアヤックスの対戦相手はかなりのチャンスを生み出せていたが、今はそうではない。即時奪回により、10秒程でボールを取り戻してしまう。」

現在、アヤックスは7試合で30得点1失点とオランダで猛威をふるっていますが、世間的にはエールディビジでいくら無双してもそこまでは評価されないようです。となるとCLで結果を出すしかない。さらにその相手はトップクラブである必要もある。スポルティングとベシクタシュも難敵に変わりないですが、ドルトムント戦かあるいはその先のトーナメントか。
テンハフ監督就任から3年半。成熟してきたチームがどんな評価を受けるのか、楽しみに待ちたいと思います。


# by ajacied | 2021-09-27 16:05 | その他

アヤックス2020-21シーズン総括 ~嵐に見舞われた1年~   

2021年 05月 16日

アヤックス2020-21シーズン総括 ~嵐に見舞われた1年~_c0193059_03014078.jpg

毎年やっているわけではないが突然思い立ってのアヤックスシーズン総括。
2020-21シーズンのアヤックスはリーグ優勝と国内カップ戦の優勝という2冠でした。国内リーグは35回目の優勝ということでアムステルダム市のシンボル『XXX』とかけたXXXVという記号を全面に祝われました。この時に用いられたハッシュタグは #XXXVoorJullie というもの。XXXVのVの部分をオランダ語のvoor(=for)として「XXXVをあなたへ」としている訳です。そしてこともあろうに優勝のスハール(シャーレ)を溶かし、42,390個の小さな星を精製。歴史の一部として、無観客にも関わらずシーズンチケットを保持したファンに配るとい離れ業をやってのけました。このクラブ、推せる。
34回目の優勝は練習試合中の心停止により寝たきりとなってしまったヌーリ(背番号34)へ捧げられたのですが、covid-19を経て35回目の優勝は、精神的にも物理的にもみんなへと捧げられたことになります。

さてコロナ禍で迎えたシーズン。無観客が続く経営的に厳しい状況だったのはどのクラブも大小あれど同じですが、アヤックスの一年を振り返ってみると、嵐が吹き荒れたシーズンだったなという感想を持ちました。記事が長くなりそうなので、戦績などはいずれ後半で振り返るとして、まず前半はその嵐について触れていきたいと思います。


■アヤックスを襲った嵐
予想外の出来事が多いシーズンでした。よく2冠達成できたなと思えるほどに。それは8月、プレシーズンから始まります。

① ブリントの体調不安
2019年12月のバレンシア戦で突然ピッチに倒れ込み、心臓に問題ありと診断されたブリントですが、プレシーズンのヘルタ戦で再発。問題はないとしてしばらくして練習に復帰、9月の開幕からも主力で出場しています。3月の代表戦で怪我をするまで問題なくプレーを続けましたが、不安が残ります。嵐とか言っていますが実はこれが一番の気がかりだったりします。

② プロメスの身柄拘束
12月に突然降りかかった斜め上を行く知らせ。とあるパーティー会場でプロメスの知人(親族だったか?)が刺され、重傷を負ったとのこと。容疑者の公表は警察からはされてないようですが、プロメスが2,3日身柄拘束されたそうです。
プロメスはパフォーマンスが安定しなかったのですがこれが原因だったかどうかは定かではないです。その後捜査が進展したかどうかもわかりませんが、少なくとも有罪とはならなかった模様。
推定無罪。原則に従って練習も試合も問題なくできるプロメスでしたが、数試合プレーした後に古巣スパルタク・モスクワへ移籍してしまいました。


そして起こった2月の大嵐。5つの事件が1週間のうちに立て続けに公表されました。
③ 物理的な嵐(気象)
21節にあたる2/7の4試合が悪天候により中止となり、アヤックスvユトレヒトもその対象に。コロナの影響やUEFA大会とも相まって、リーグ全体としてもスケジュール的に乱れたシーズンとなりました。延期されたユトレヒト戦は低調で引き分けになりましたが、優勝もできたことで結果的にこれは言うほど影響はなかったように思います。

④ アレーのUEFA登録忘れ
育成枠ではなく実力的に申し分のないスピッツ(CF)を探し求めていたアヤックスが遂にマッチする人材に巡り会いました。クラブ最高額の移籍金でセバスティアン・アレーを獲得。加入後すぐに結果を出し、獲得が間違いではなかったことを証明しました。
CLのグループリーグ突破は叶わなかったものの、ELで高みを目指せる戦力が整った!…と思った矢先。獲得後にUEFAの選手登録手続きを忘れてしまいELに参加できない事態となりました。国内のリーグとカップ戦専用機。その容姿に違わずクールに振る舞ったアレーですが、その心中は推して知るべし。
ちなみに、同時期にローン加入したイドリシの登録はバッチリでした。

⑤ オナナの出場停止措置
またしても想定外の報。守護神オナナがドーピングによって1年間活動禁止に妻が所持していた鎮痛・解熱剤を飲み、それが引っかかってしまったとのことです。意図的ではないのにあまりにも厳しい、とクラブも抗議したものの罰則は変わらず。練習はおろか、優勝セレモニーにも参加できなくなり同情の感もありますが、厳しい言い方をすればあまりにも不注意…。
夏に獲得したステケレンブルフが流石のパフォーマンスでオナナ不在を埋めてくれたものの、大事な場面で経験の乏しいスヘルペンを起用しなければならなくなり、ELも敗退。オナナがいたらどんなシーズンになっていただろうか。そう思わずにはいられません。

⑥ ライコフの移籍
16歳の将来を期待されたCFライコフがドルトムントへ移籍。子供の頃から丁寧に育ててさあこれから!というところで僅かな移籍金で隣国へ渡ってしまいました。背景には代理人ライオラの影…。ボスマン判決以降優秀な選手の流出という悩みをずっと抱えてきたアヤックスは、育成型クラブとして近年上手く対処できていたように思えましたが、またしてもこの問題に直面してしまいました。

⑦ そして、ブロビー
極めつけは多くの論争を巻き起こした男、ブライアン・ブロビー。
19歳のブロビーもライコフ同様子供の頃から育成したアヤックス産のスピッツ。ヨング・アヤックスでも結果を出し、トップチームでもここからというところだったのですが、契約を延長せず来夏にフリーで出ていくことが確定したという発表が公式からありました。
さらにその後、RBライプツィヒへと4年契約で移籍することも発表されています。なんでもナーゲルスマンの元で学び、更に成長したいという想いがあったようです。ちなみに、ブロビーの代理人もミノ・ライオラ。
驚きはここからで、このような振る舞いに対しては当然出場機会を無くすような対応をするだろうと思ったのですが、アヤックスはスーパーサブ的な扱いで起用し続けます。このポジションは選手層が薄いという事情もありますが、シーズン前半戦のVVV戦で5ゴールと爆発的な活躍をしたラシナ・トラオレが同年代にいるにも関わらず。しかしブロビーは、ELアウェイのリール戦1stレグで貴重な逆転ゴールをあげるなど、途中出場しては結果を出してしまうため、ファンは感情の整理に苦しむ日々を送りました。

『Brianstorm』、大きな嵐を巻き起こしたブロビーによる騒動は、後に人々からそう呼ばれたとか、どうとか。
批判は勿論多かったけれども、特に極東では深夜・早朝の試合にも関わらずブロビーの途中出場を待ち望み待機するなど、謎の現象も確認されました。フラーフェンベルフやレンシュとのコンビネーションから目が離せないんだ、とか言って。まあいいや。See you later, innovator...

尚、その後ナーゲルスマンのバイエルン行きが発表され、ブロビーの計画は早くも崩れてしまいます。契約締結した期間が始まる前から、アヤックスがRBライプツィヒから買い戻すか?などといった噂も飛び出し、もはや処理不可能な状態です。
アヤックス2020-21シーズン総括 ~嵐に見舞われた1年~_c0193059_03104478.jpg
どこかを見つめるブロビー

様々なことが起こりましたがこうして改めて振り返るとクラブ運営の問題のような気もしてきました。まあそれはご愛敬として、とりわけ今後のアヤックスを考える上では特に、育成型クラブの立場とスポーツ競技としての成功をどう両立させるのかというのは改めて考えなければならない問題ではないかと思います。
アヤックスは実績のない若手であっても将来性が期待されれば契約の切れる1年前などに契約延長を結ぶことが多く、これによってフリーでの移籍をある程度防いできました。ただそれも子供の頃から良い環境で育成をすることによって生まれるクラブへの忠誠心と、トップで経験を積むチャンスが得やすい環境の上で成り立っていたものかと思います。
近年、アヤックスはタディッチ、ブリント、クラーセンといった海外でも経験のあるベテランを中心に添えて結果を出しています。2016-17シーズンはリーグ戦のスタメン平均年齢が22.4歳と若かったのに対し、CLでベスト4まで行った2018-19シーズンは24.5歳、2020-21シーズンは24.7歳となっており、ポジションによっては若手の出場機会が減っているのが現状です。
キャリア形成という面でクラブとしての相対的な価値が変化している中、倫理のみで成り立っているという事実を突きつけられた形なのではないでしょうか。


■ESL騒動から考えたい、アヤックスの今後
アヤックスに色々あったのはこれまで書いた通りですが、スーパーリーグ構想によってフットボール界全体で大騒動となっていたのも今シーズン。スーパーリーグ騒動についてはここでは省略しますが、コロナ禍で露呈した人件費や移籍金、放映権料や試合数の問題はフットボールの生態系に組み込まれている以上避けては通れないものです。
アヤックスはコロナ禍においても黒字を計上するなど比較的健全な経営ができている方かと思いますが、移籍金収入やUEFA大会による収入の割合も多いです。現状は中堅・ベテラン選手と若手を融合することによって、欧州大会で結果を出すことと若手選手の価値を上げることを両立させるべくバランスを取っていると思います。しかし高騰している選手移籍金はこれまで通りとはならない可能性は十分にありますし、上述のように有望な選手の維持がうまくできるかどうかという問題も孕んでいます。フットボール界全体を見ても問題を解決する良い策が無い状況で、しばらくは同じ方針で行くものと思いますが、手放しで喜んでもいられない状況です。
オランダではベルギーとリーグを共にすることでリーグの価値を上げるBeNeリーグの構想も検討されていますが、リーグの価値を上げるというのもこれまでの放映権料が右肩上がりだった状況から出ている考え。止めるべきとまでは言いませんが、一度立ち止まって考えた方が良いようにも思います。

ちょっとシーズン総括としては問題が大きすぎるのでこの程度で棚上げしておいて、とりあえずアヤックスは健全経営の前に登録漏れとかのチョンボが無いような組織作りから取り組んだら良いのではないかと思います。

# by ajacied | 2021-05-16 03:03 | その他

シェーネはフリーキックを決め続ける   

2019年 08月 10日

ジェノアへのシェーネの移籍が発表された。
シェーネはフリーキックを決め続ける_c0193059_00424630.jpg
数日前から移籍濃厚なニュースが出ていたものの未だに信じられない。勝手な話であるがシェーネはこのままアヤックスでプレーし続けるものと思っていた。
僕は箱推しのため、特定の選手に特別な思い入れを持って見ることは少ない。宿敵フェイエノールト相手に美しいスコーピオンを決めてアヤックスに興味を持つきっかけを作ったファンデルファールト、情報のない時代に"DFながらFKで凄いゴールを決める"という雑誌のわずかな文字情報だけで僕を虜にしたフランクデブール、得点能力だけでなく個性も際立っていたスアレス、新しい時代を感じさせるフレンキーデヨングなど、好きな選手は枚挙に暇がないのだが。
しかしその中においてもシェーネの存在というのはひと際大きい。アヤックスが苦しい時期も含めて長くいたから?印象的なゴールがあったから?グッドルッキングだから?理由は明確にはわからない。きっと全てなんだろうと思う。

シェーネは2012年にアヤックスに加入してから実に7年も主要な選手として活躍し続けている。アヤックスというクラブにこれだけ長く居続けることの難しさは想像に難くないだろう。良いか悪いか、アヤックスというクラブは育成に長けたクラブであることから、ビッグクラブへステップアップするためのクラブだと見られている面がある。とは言えアヤックス自身も国内ではトップクラブ。欧州においても近年そのプレゼンスは落ちていたとはいえかつてはチャンピオンズリーグでのプレーが当然だったクラブ。2016年にはヨーロッパリーグ決勝進出、昨年はチャンピオンズリーグのセミファイナルまで進んだことからも、決してレベルが低いわけではない。若いうちに突出した面を見せればすぐに引き抜かれてしまう一方で、力が足りなければその他の才能に押しやられてしまう。現在在籍する選手ではフェルトマンと並んで継続してトップチームにいる期間の長いシェーネはアヤックスにおいても重要な選手だと言える。

しかしながらアヤックスにおけるシェーネの立ち位置は決して盤石なものではなかった。ポジションの適正がつかめなかったのだ。右ウィング、攻撃的MF、守備的MF、サイドバック…様々なポジションでのプレーを強いられた。ようやく適正と言える場所が見いだせたのは2016年にボス監督がDMFにコンバートして以降ではないかと思う。

さて、シェーネといって思い浮かべることと言えばやはりFKからの直接ゴールだろう。記憶に残るシーンというとやはりシチュエーション込みになってしまうため、ゴールの美しさとして最も素晴らしいかはわからない。しかし真っ先に思い浮かんだのが2つのゴールと1つのシーン。

1つは2016/17シーズンのデ・クラシケル。最終的にはフェイエノールトに逃げ切られ優勝を逃したシーズンだったが、首位を追いかける負けられない展開の中、試合開始早々に自ら得たフリーキックをゴールにぶち込んだ。

2つめは2018/19シーズンのチャンピオンズリーグ。ベルナベウでレアルマドリーを圧倒し勝利した試合。試合後にシェーネは狙っていなかったとコメントしていたようだが、このレベルで勝ち進めることを確信したという興奮も含めて素晴らしいゴールであった。

そしてゴールではないけれどもうひとつ、2016/17のKNVB杯ヴィレムII戦。この試合はデリフト、フレンキー、そしてヌーリがトップデビューを果たした試合。デリフトはゴールも決めたし、なんならシェーネも4点目をペナルティアークあたりからのFKで決めているのだけれど、見どころはその後にあった。4点目とほぼ同じ位置からのFK。数分前に決めているシェーネが警戒される中、虚を突いて蹴ったのが途中出場でデビューしたばかりのヌーリ。シェーネがヌーリの初ゴールをアシストした、そんなシーン。
まあ試合は決まっていたし、シェーネは既に得点もしていて気分は良かっただろうし、このFKもヌーリ自身が獲得したものだったのだけれども。


…前置きが長くなってしまったけれども、ここからが本題。
そんなシェーネが居なくなってしまうなんて信じられない。そんな僕はシェーネがこのままアヤックスに居続ける並行世界を夢想しながら生きて行くのだろう。笑顔を滅多に見せずアイスマンと呼ばれるドルベリに笑顔をもたらす稀有な存在として、アヤックスに在籍しつつ和やかな様子を見せ続けてくれる並行世界を。

そう思い、まずはアヤックスにおけるシェーネの活躍を振り返ってみることにした。
12/13 7得点 内FK直接は0得点
13/14 13得点 内FK直接は3得点
14/15 11得点 内FK直接は4得点
15/16 5得点 内FK直接は1得点
16/17 9得点 内FK直接は4得点
17/18 11得点 内FK直接は3得点
18/19 7得点 内FK直接は4得点
*transfer markt調べ

アヤックスで決めた得点のうち、実に30%がフリーキックを直接叩き込んだものである。これがどれほど多いのかはわからない。そこで、フリーキックの距離をシェーネの得意な30mと仮定したところ、アヤックスに在籍した7年間で決めたFKの飛距離は570mとなった。アムステルダムからジェノヴァまでの距離はおよそ935km。そう、FKでゴールを決めつつジェノヴァへ行くには11,482の年月を要する計算だ。仮にシェーネがジェノアに移籍してしまったとしても22,964年待てば再びアヤックスに戻ってきてくれるだろう。
アヤックスは創立の1900年から2019年までに国内リーグを34回優勝し、ビッグイヤーを4度掲げている。この間で6562回リーグ優勝できるし、ビッグイヤーは771回も掲げる。CL優勝回数が最多のレアルマドリーでさえ13回なのだからこれは凄まじい成績といえる。

視点を変えると新たな事実に気が付くことができる。シェーネが決めたゴールのうち、フリーキックによる割合が傾向としては右肩上がりとなっているのだ。
シェーネはフリーキックを決め続ける_c0193059_03111628.png
このまま在籍を続けることにより、25/26シーズン頃には全得点がFKとなる。さらにそれ以降は得点以上に多くのFKによるゴールが見られる計算である。NECナイメーヘンからフリーで獲得したのになんとお得なことだろうか。

シェーネを愛して止まない我々は今シーズン以降も彼の素晴らしいフリーキックを見続けることができるのであろうか。スカパー!やDAZNに登録することでそれはきっと可能だろう。しかしそんなことをせずとも彼のプレーは我々の脳裏に焼き付いている。フェイエノールトの出鼻を挫き、レアルマドリーを諦めの境地に追いやったプレーを反芻する。何度も何度も。そして、隣でドルベリは笑っている。


参考:もし今もモイーズがクロスを上げ続けていたら



# by ajacied | 2019-08-10 03:42 | Transfer