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アヤックスにドイツの波がやって来るヤァ!ヤァ!ヤァ!   

2017年 12月 28日

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突然のカイザー監督とスパイケルマン、ベルカンプの解任から1週間。アヤックスはユトレヒトの監督だったエリック・テン・ハフ就任を発表しました。そしてアシスタントコーチとしては、現ホッフェンフハイムでアシスタントコーチを務めているアルフレッド・シュルーダーを迎え入れることが決定するのも時間の問題だと言われています。(※追記:年明けの1月5日に正式に発表。)
半年前、ボス監督の後任としても名前があがっていたテンハフ監督ですが、オランダにおいてそのスタイルは特殊で異質な存在でした。今回の就任によってアヤックスやオランダにどのような変化をもたらしてくれるのか、あるいは破壊してしまうのか。個人的には期待が勝りますが、期待と不安が入り混じった現在の状況を備忘録的に残しておきたいと思います。内容的にはほぼVI記事の受け売りなのですが。
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■テンハフ、そしてシュルーダーとは何者か
テンハフはオランダでアシスタントコーチや監督を経験した後に、マティアス・ザマーに呼ばれる形で2013年から2年間バイエルンに在籍しています。役割はきちんと把握できてないですが、おそらくU-23チームのコーチとして。ご存知の通り、この時期のバイエルンはペップがトップチーム監督の時代。テンハフはグアルディオラの傍で仕事をしており、影響を多分に受けたであろうことは想像に難くありません。バイエルンへ行く前のゴーアヘッドイーグルスにおいても監督としては十分に優れており、選手からも「これまでの監督の中でベスト」と称賛されるほどでしたが、国外、それも世界有数のトップクラブに在籍したこと、そしてグアルディオラと議論を重ねたことからは学ぶことは多かったようです。以前はフットボールに関する全てのことは既に発明しつくされていると考えていたが、相手をおびき出す方法などグアルディオラが持つ数多くの解決策を通して考えを改めたということも語っていたそう。
この濃密なバイエルン時代を経て、2015年からはユトレヒトの監督に就任。上位定着やカップ戦準優勝と結果を出し、2016年のオランダ国内最優秀監督であるリヌス・ミケルス・アワードも受賞しています。

シュルーダーもテンハフと同様、トゥウェンテなどオランダで監督経験を積み2015年からドイツへ。ホッフェンハイムではナーゲルスマンの右腕としてアシスタント職を勤めていました。ルーチン化しない毎回異なる練習の構築、柔軟な戦術での対応など、多くを学んでいるはず。
トゥウェンテ監督時代はあまり良い結果ではなく、ファンからも抗議のバナーを掲げられるほどの状態となり最終的に解任されてしまいましたが、クラブ経営に問題を抱えていた時期であったことは付け加えておきたいところです。シュルーダーがアシスタントコーチを務めていた時期はリーグ優勝を達成するなど黄金期でもありました。スカウティング能力、選手の資質を見抜く力に長けているという評価もある人物です。

どちらもオランダ人ですが、戦術先進国ドイツの考え方が色濃く反映されそうな人選です。


■変化するエールディビジ
オランダのフットボールにおける伝統の中心はアヤックスであると言っても過言ではないでしょう(異論はあるでしょうが)。今回はそのアヤックスに変化の兆し、ということですがオランダ全体を見ると、既に数年前からゆっくりと変化は始まっていました。

人口およそ1700万人、面積41,540㎢の小国オランダがこれまでサッカーで尊敬を集めた理由のひとつは戦術や育成のメソッドではないかと思います。4-3-3のフォーメーションをベースに(クライフの頃は3-4-3だった気がする。どういった経緯で4-3-3が主流になったのかは勉強不足のため不明)、ユースの頃から皆が同じ戦術でやることで理解度も高まる、といったもの。

しかしその強みが衰退の原因となっているととらえることもできます。オランダでは全てのチームが4-3-3で戦うため、全ての選手は何をすべきか、そして相手がどう来るかを完全に理解しています。雑な言い方をすれば、毎週毎週各会場で予定調和な試合が繰り広げられるということになります(さすがに雑すぎですかね)。戦術も4-3-3しか学んでこないため、普段と異なるプレッシャーをかけられると途端に混乱に陥ってしまうのです。
様々な戦術を発展させたクラブが対戦相手となる欧州でオランダ勢が結果を残せなくなっているのはこのあたりが影響しているように思えます。3-5-2と5-3-2を巧みに使いこなしたロストフに苦戦したアヤックスとPSVが象徴的な事例ではないでしょうか。
過去に確立したものが素晴らしいのは確かだが保守的になりすぎることで取り残されている、という指摘は様々なところでなされています。

さて回りくどい現状把握はこのくらいにして、近年の変化について。
変化のきっかけはテンハフがユトレヒトに来た2015年と言われています。VIの記事 が興味深かったのですが、90%前後が4-3-3だったエールディビジがこの年を境に70~80%となっています。代わりに増えてきたのは4-4-2、5-3-2など。
PSVのコクー監督も言っていますが、テンハフとの対戦は戦術が勝敗を決定付けるため相手監督も対応を強いられるそう。結果、慣れない形となりうまくいかないという側面もありそうですが、テンハフがオランダにおける戦術パラダイムシフトの中心という見方は間違いなさそうに思います。


■各クラブの事例
テンハフユトレヒトに影響されたかどうかはさておき、オランダクラブが4-3-3以外を選択するようになってきたのは事実。普段はアヤックスの試合以外はそこまで細かくチェックしないのですが、アヤックスの試合だけ見ていてもその変化は薄々感じられるようになっていました。言われるまでははっきりと認識はできていませんでしたが。
そこで、4-3-3以外を選択したクラブとアヤックスとの対戦成績を17-18シーズン前半戦を中心に見てみたところ、なるほどアヤックスは比較的これらのクラブに苦しめられているようにも見えます。
複数のクラブが伝統の4-3-3とは別の方法を模索し、結果を出し始めている。もはや4-3-3は不可侵なものではなくなっているということかもしれません。

FCユトレヒト/テン・ハフ
中盤がダイヤモンド形の4-4-2と3-5-2、5-3-2など多彩。アヤックスとの対戦成績(フォーメーション)はざっと調べたところ次の通り。
2015-16  Utrecht 1-0 Ajax (4-4-2)
2015-16  Ajax 2-2 Utrecht (4-4-2)
2016-17  Ajax 3-2 Utrecht (4-4-2)
2016-17  Utrecht 0-1 Ajax (4-4-2)
2017-18  Ajax 1-2 Utrecht (5-3-2)
デブール監督は中盤をボックス形にした3-4-3で挑み撃沈。まだボックス形は時期尚早だったという結論に至りました。
ボス監督は「3CBは私のオプションには無い」と断言し相手に合わせる気ゼロ。自分たちのやり方を貫き通すことでなんとか勝ち切っています。
カイザー監督は細かい対応まではわかりませんが、4-3-3で挑み敗れています。

ヴィレムII/ファンデローイ
5-3-2や4-4-2を採用。ヴィレムIIは今シーズンのリーグで最も失点数の多いチーム。ゴール前にバスを止めることが5バックとしている目的ではなさそうです。
17-18シーズンのアヤックスとの対戦では5-3-2と4-2-3-1で挑んでいます。どちらも3-1でアヤックス勝利でしたが、両方の試合でヴィレムが先制し、安心しては見られなかったと記憶しています。

FCトゥウェンテ/ヘルトヤン・フェルベーク
今シーズン途中に就任して間もないですが、フェルベークもAZ時代にやっていた4-3-3を5-3-2へと変えています。アヤックスはリーグとカップ戦でトゥウェンテと対戦していますが、リーグでは3-3、カップ戦では1-1の末PKで敗れるなど、今シーズントゥウェンテに対しては完全にやられています。

ヘラクレス/ヨン・ステヘマン
親善試合では5-3-2を試し、ドイツ2部上位のホルシュタイン・キールに2-3で勝利するなど良い試合を演じたそうです。ただ、現在はドゥアルテが怪我している関係でこの新システムのエールディビジでのお披露目はおあずけ状態とのこと。アヤックスとの対戦でも4-3-3としていました(3-1でアヤックス勝利)。

AZアルクマール/ファン・デン・ブロム
アヤックスとの対戦では4-2-3-1を採用。1-2でアヤックスが勝利しましたがハイレベルな内容に苦しめられました。

フィテッセ/ヘンク・フレーザー
アヤックスとの対戦では4-3-3でしたが(ホームのアレナで1-2の敗戦)、フレーザー監督も相手に応じて5-3-2などを採用しているようです。

この他にも、2016-17シーズンNECのヒバラ監督も面白い存在でしたね。降格圏に沈み解任されてしまいましたが、継続して、若しくは他クラブで見てみたかった監督です。


■アヤックスにもあった少しばかりの変化
これらの流れとは多少異なるかもしれませんが、アヤックスも必ずしも従来の4-3-3一辺倒だった訳ではなく、カイザー監督はフレンキー・デヨングをCBの位置に配置するなど、興味深い変化をつけていました。あくまで4-3-3の派生形というレベルの変化なのかもしれませんが、PSVとのトッパーでは攻撃時に中盤に入ったり時には最前線に飛び出すなど縦横無尽なフレンキーの活躍があり完勝。この試合はカイザー監督のベストマッチではないでしょうか。
フレンキーが不調に陥った場合に機能するのかという問題もありました(実際、フレンキーが途中交代したKNVBベーカーのトゥウェンテ戦ではファンデベークが同じ役割をこなすことはできなかった)が、もう少し見てみたかっただけに、この形が完成を迎える前に監督交代となったことについては少し残念な思いも残ります。


オランダにおける4-3-3の伝統。その本丸とも言えるアヤックスに起こるであろう大きな変化―。もちろんテンハフがアヤックスでも成功し、34回目のリーグ優勝を勝ち取れるのかどうかが最も気になるところなのですが、その手法についても非常に興味をそそられます。さらに、今後のアヤックスやオランダ全体の潮流、育成の方針を含めた視点でも、無い戦術眼を駆使して追いかけていきたい。そう思わせるような大きな転機となる監督交代ではないかと思います。

最後に追記してシュルーダーの就任決定後のコメントより。ナーゲルスマンとテンハフの類似点に触れつつ次のように語っています。
「どちらの監督も複数のシステムでプレーできることを目指している。それは私の哲学でもある。選手たちはより柔軟にならなければいけない。アヤックスにおいては我々のドイツでの経験を共有し、そこから皆が向上できることを望んでいる。」
今回の監督交代が素晴らしい結果となることを期待しつつ、今後アヤックスに起こる変化を見守っていきたいと思います。


by ajacied | 2017-12-28 21:43 | Eredivisie

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